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つくり手を訪ねて
フルーレ 松浪 由香

2013年8月

スコーンと聞くと「ぱさぱさして食べにくい」というイメージをお持ちの方もいるのでは?フルーレのスコーンは、しっとりふわっ。だけどしっかり詰まって食べ応えがある、何度でも食べたくなるスコーンなんです。
そんな美味しい手づくりスコーンのお店、フルーレの松浪 由香さんにお話を伺いました。

取材を始めてすぐ、「え、写真を撮るの!? 少々お待ちを〜」と言ってお化粧を直しに行った由香さん。キラっと整えて帰って来てくれました。

そんな由香さんと同じく、いつも綺麗な店内のフルーレ。実は建てられて16年前も経つとか。
始めは由香さんのお母さんがやっていたお菓子と紅茶のお店を、2011年に由香さんとお兄さんが兄妹で継ぎました。


【由香さんがお店を継ぐまで】

由香さんは以前から「28才までに飲食店のお店を持ちたい」という目標を持っていましたが、あまりお菓子が好きではないこともあり、お母さんのお店を継ぐつもりは全くなかったそうです。
大学を卒業してからは、「人の味覚はそれぞれだけど、伝え方や伝わり方が重要」だと思い、広告の会社に勤めます。

広告の会社を辞めてから1年間は、東京へ行き自分のお店を持つため、パンやハンバーガー、サンドイッチなど関心を持ったことに対して、実際に食べ比べるのはもちろん、その業界に入って実際に働きながらひたすら研究と分析を重ねていきます。そして味の系統や金額、経営の方法など様々なことを吸収します。

その後、お母さんの体調が悪くなったこともあり、福岡に戻ります。
ちょうどその当時、食べ物の仕事から離れたいという気持ちになっている由香さんに対し、お母さんは「サンドイッチが食べたい」と頼みます。しかもこっそりお友達に配る分まで、いつもたくさん由香さんにサンドイッチを注文しました。
由香さんはそれに応え、サンドイッチを作ってお母さんに届けます。そして、食べ物を作っているときは嫌なことを忘れられることに気づき、「やっぱり食べ物を作る仕事がしたい」という気持ちが湧いてくるのでした。
お母さんが由香さんの背中を押してくれたのですね。そこで由香さんは、お店を継ぐことを決めます。


【お菓子の道へ】

お兄さんと二人でお店を継ぐと決めてからは、動けないお母さんから口頭でお菓子のレシピを聞いて作って習得していきました。しかし不思議なことに、いざお菓子をつくり出したら意識しなくても作れることに驚きます。
由香さんは「お店を継ぐつもりもなかったけど、思い返すと毎日お母さんのお店の手伝いをしていた」と言います。学校から帰ったら洗い物をしてお母さんの手伝いをする、ということが生活の一部だったそうです。

例えば「ガトーショコラを食べたい」とお客さんに言われたら、お母さんが作っていたときの音や匂いの記憶を辿り、「あの音で混ぜてたってことは、こういう混ぜ方かな」とか「これは卵黄を分けてやってたやり方だな」など、思い出して作ることが出来たそうです。
「ちょっと違うな」と思う時はお母さんに聞くこともあったそうですが、こうして思い出しながらお菓子を作ることが段々と面白くなっていった由香さん。

「パンとか料理と違って、お菓子って化学変化で成り立ってるものだから温度だったりグラム数だったり、卵も何℃の物を使うかによって、同じ作りかたでも違うものができるでしょ」と語るように、和菓子と洋菓子が同じ材料を使っても全然違うものができることや、洋の中でも材料の組み合わせで可能性がどんどん広がっていくことに関心を持ち、由香さんの探究心に火がつきます。
「スポンジだったらなぜスポンジがあの状態になるのか知りたい」と私が思いつきもしないようなところに疑問を持つ由香さん。京都のお菓子作りの講座を特別に受けに行くなど、持ち前の行動力でどんどん探求していきますが、一番は「実際に作ってたくさん失敗する」ことを大事にしたそうです。

例えばケーキを一つ焼くにもまず正攻法でやってみて、「じゃあ泡立てずにやってみよう」とか「ものすごい泡立ててみよう」と、同じ分量で様々なやり方を試します。案の定、失敗してものすごいことになったそうですが、それでやっと「なるほどね!」と思えたそうです。
そしてその失敗のおかげで、他のレシピを作るときに「もうちょっとしっとりさせたい」「もうちょっとフワッとさせたい」という時に「あのやり方でやってみようかな」と工夫をしていくことができたんですね。
「例えレシピがあっても、自分が納得する味に変えていくやり方をしている。でもその過程が楽しい」と語ります。

そして納得するための由香さんの善し悪しの基準は、昔からお母さんが本当に色んなお菓子を食べに連れて行ってくれたことで作られたと言います。ずっと、お母さんが由香さんを導いてくれていたんですね。


【由香さんのこれから】

「5年後10年後は何をしてるか分からない。作ること自体に魅力を感じているわけでなく、自分が何かをすることで相手が温かい気持ちになってくれたり、喜んでくれる顔が見れる仕事をしたい気持ちが一番。
内容は何でも良くて、自分が伝えたい想いが伝わる仕事ができればそれでいい。
今はお菓子を作ることでそれが一番できるからお菓子を作ってるけど、もしこの先にもっと想いをストレートに伝えられる仕事が見つかればそっちに行くかもしれない。」

今後、お菓子に留まらない由香さんのメッセージを受け取れる日が来るかもしれませんね。


【大事にしてること】

由香さん曰く、フルーツ・お野菜・卵などには新鮮かそうじゃないかとは別に「魂が入ってるかどうか」みたいなものがあるんだそうです。
お菓子も同じように、たくさん並んでる中に賞味期限とは別の「この子ちょっともう終わりだな」と感じるものがあるとか。他にも二個セットだと組み合わせになる子とならない子があったり、出来上がった時に「これはここのきに行く子」という表情が見えるそうです。
そうやってそれぞれの素材やお菓子の顔まで見て作る由香さんは、お菓子そのものを主役にさせたいという気持ちがあり、パッケージのシールなどもあくまでお菓子を美味しそうと思わせものを選ぶようにしています。

それから広告の仕事を通して、「ひとつのものを作ってる裏で、本当にいろんな人が動いてくれていることを学んだ」という由香さん。現在、仕入れている糸島のフルーツ生産者の方などには、お客さんが喜んでいたことを伝えたり、その生産者の方が作ったフルーツを使ったケーキを毎シーズンプレゼントするそうです。すると「わぁこんなに綺麗になると?」って喜んでもらえるとか!

取材の終わりに。
私は、由香さんの笑顔を見るとホッとします。人に対してふかーい愛情のある人だなと思います。きっと、素材や出来上がったお菓子、生産者の方、そしてお客さんにも同じ愛情を持って接しているんだろうなと思えた取材でした。
たくさん迷いながら、でも大事なものを守りながら作る由香さんのお菓子をまた食べたくなりました。

インタビュー 前田 綾子
写真と文  山下 舞