糸島くらし×ここのき 福岡県糸島市前原中央3-9-1  092-321-1020

つくり手を訪ねて
DOUBLE=DOUBLE FURNITURE 酒井 航

2013年8月

真っすぐな直線となだらかな曲線の組み合わせが美しい木製の食器や家具たち。
これは全て、食卓を中心に生活に使うキッチンウェア・テーブルウェアから家具までを手がけられる「DOUBLE=DOUBLE FURNITURE」酒井 航さんの作品です。
志摩久家のショールームは、形の整った工業製品が並ぶ空間とも違い、手づくりのあたたかさに包まれる空間とも違う。まとまりがあり、とにかくクール。
これまでプレゼントで渡したという家具があり、本棚には酒井さんが集めたたくさんの本なども並べられていました。
もとは壁しかなかったというこのショールームですが、「余った床板で作っちゃった」という木製のキッチンなど全て酒井さんが作られたものというから驚きです。
(工房は2014年春に志摩芥屋に移転済みです)


【 DOUBLE=DOUBLE FURNITUREの名前の由来】

はじめて聞いたときは「オシャレな工房名だなー」と思いましたが、実はこの DOUBLE=DOUBLE は W=W、「Wataru Woodworks」から来ているそうです。
個人の名前で作家として活動していくというよりは、生活の中の「こういうものが木でできたらいいな」を酒井さんがデザインして、必要なところは専門家の手を借りながらブランドとして展開したいという想いがあるそうです。
だから読み方こそ工房名に入れてはいませんが、ご自身の名前(Wataru)と木工家(Woodworks)だという気持ちはしっかり残して。


【酒井さんの歩み】

大学では建築を勉強された酒井さん。
しかしとても膨大な情報を扱う建築の世界を知り、3年生の時に「これは本当に自分に向いている職業なのか」「このまま建築の世界に就職していいのか」という疑問を抱き、今の奥さまと1年間、カナダへワーキングホリデーに。この頃は、まだ家具を作るとは考えていなかったそうですが、日本へ帰る前に、卒業設計で家具の制作をしようと決めます。
酒井さんの家具づくりへの道はここから始まりました。
大学卒業後は、糸島で木工や家具などの工房をたくさん回り、その後、岐阜県にある木工職人養成の森林たくみ塾を受験します。
その時を振り返って酒井さんは、「ここで受からなかったら縁がなかったと思って木工の道は諦めるつもりだったけど、受かったので『この道を進んでいいんだ』と思った。」と語ります。
森林たくみ塾では、2年間、機械での作業をメインとして実際に現場で作りながら身体で学びます。その2年間のうちには、木のことを知るための植樹やドングリから木を育てることもされたそうです。
そして8時から6時まで実際にものづくりの現場で働きながら勉強をし、朝や夜も復習をしたり道具や森のことなどを学んだと言います。
森林たくみ塾を卒業後は、さらに長野で4年間の修行を積みます。
岐阜での機械を中心にした仕事と、長野での手仕事を中心にした仕事の両方の修行期間を経て、「家具を作るための手仕事とはなんだろう」と考えるようになったそうです。
そして2011年。糸島に戻り、DOUBLE=DOUBLE FURNITUREを設立しました。


【手仕事へのこだわり】

「例えば100本あったら100本同じものを作りたい」
私が今回の取材で一番印象に残った酒井さんの言葉でした。確かに酒井さんの作品は、ひとつひとつ木から削り出しているとは思えない正確さを感じます。
しかし「木が万能だとは思ってない。ガラスや金属にも特性があるから『ここが木だったらいいよね』というところは木で表現したいし、そうじゃないところには別のものが合えばそれが一番いいと思う。
ひとつの素材で生活している家はなくて、いろんなモノが組み合わさって生活感だから。」と語ります。
酒井さんの作品は金属やガラスなど他の材質に調和することで、生活にちゃんととけ込むように意識をして作られているのですね。
ショールームに入った時に感じる「まとまり感」はそういうところから来るのかも知れません。
2014年春には芥屋の新しい工房に移るDOUBLE=DOUBLE FURNITURE。
そこでは、グラスなどの酒井さんがセレクトした生活雑貨も一緒に見ていただくことができそうです。ひとつの家具だけでなく、誰しも体験したことのある「あ、このコップうちでも使ってる!」というような共感から家具を囲む生活のシーンを提案できたら、という想いがあるそうです。
酒井さんの「空間まるごとの提案」、絶対にカッコいいこと間違いなし!今から待ちきれないですね!


【娘と共にそだつ】

そんな来春の素敵な目標へ向けて進む酒井さんですが、なんとこの夏、第一子の女の子が生まれたばかり。
奥さまを支えるために朝から家事をすることもあり、出産の前後では生活や仕事のリズムにも少し変化があったそうです。
しかし、「自分の子どもが使うものを自分で作りたい」という酒井さんの言葉に、もう私たちは「待ってました」という気持ち!学習机はもちろんのこと、おもちゃや子どもイスなどなど...。期待は膨らみます。

ただ酒井さん本人は、兄弟にも親戚にも女の子が居ないため、女の子が何をして遊ぶのか、どんなものが好きなのか、初めてで分からないことがたくさんあるそうです。それもまた、これまでにない新しい発想を生んでくれそうですね。これから子どもとともに育ってゆくDOUBLE=DOUBLE FURNITURE 。いろいろな作品が展開されていくのが楽しみですね!

取材を終えて。
今回の取材を経て、酒井さんは本当に真っすぐな人だなという印象を受けました。
始めは、淡々とした冷静な人だという印象を持っていましたが、自分に課したハードルは常に高く、「受け取る人の期待を越えて喜んでもらいたい」という気持ちで前に進んで行
く人のように感じました。
そして「このストイックさはどこから来ているのだろう」と振り返ると、やはり修行時代の師匠や家具の巨匠たちに対する尊敬の念、そして信頼から来る誠実さのような気がしました。
修行をした土地や師匠が持つ高い水準の技術やプロ意識に対する良い意味でのプレッシャーが、いつも酒井さんの背中を真っすぐ立たせ、「自分自身の感性に忠実に、そしてこれまでの学びに誠実なものづくり」を支えているような気がしました。