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つくり手を訪ねて
工房はーべすと 黒川 コータロー

2014年5月

木の質感が優しい肌合いを生み出し、可愛い中にも大人なシンプルさを合わせもつ家具や時計。それらは、まるでずっとそこに在ったような、時の重なりを感じる優しさに包まれています。


芥屋にある「工房はーべすと」。
黒川コータローさんは、糸島で1995年から20年近く木工家として活動されています。


【木工家になるまで】

黒川さんのご出身は久留米。
なんと元々は化粧品会社に勤めてられていたそうです。そこで同じ会社で働く奥さまと出会い、34歳の時に木工で生きていくことを決めます。
そして会社を辞めて結婚すると、驚くことに3日後には長野にある木工の職業訓練校に行っていたと言います。
そこで、木工機械の使い方や道具の使い方、材料のことなどを学び、一通りのものを作れるようになったそうです。
今でも訓練校に通っていた時に作った机やイスが残っているとか。

黒川さんが訓練校に通っている間、奥さまは、以前働いていたメイクの仕事を活かし、トールペイント(木製品や洋服などにアクリル絵の具でイラストを描く)を始めました。現在では絵本も作られるなど、ご夫婦でものづくりをされてとても憧れます!

そして、1年間の職業訓練を終えて、「何を作るか、どういう考えで進んで行くかは、そこからという状態だった」と黒川さんは語ります。
しかし、木工を始めた時点で、独立するということは決めていたため、大野城の木工所に1年勤めて、工房を作るための土地を探します。
今でこそ、木工家が多く集まっている糸島ですが、その当時は、3〜4軒くらいしか無かったそうです。

そして木工家として独立してすぐは、「作品を作るのは自己表現だと思っていたから、他の人が作らないものを作りたいと思っていた」とか。カントリー調の家具が好きで、凝ったものを作っていたけど段々とシンプルなものに変わってきたそうです。


【はーべすとのデザイン】

「機能だけじゃなくて遊びを入れることを大事にしている」 と語られるように、確かに机やイスなどの丸みのある足、鳥や虫などの自然を取り入れた遊び心のあるデザインは、女性にも好きな方が多く、多くの方の目を魅きます。
このデザインも全てお一人で考えて作られるから驚きですね。

またはーべすとの代表作のひとつでもあるドア。美容室などからの注文が多いそうですが、中には「復興のための象徴にしたい」という想いで東北からの注文もあるとか。
黒川さんの手から生まれたものの温かさが、きっとドアを開く人に伝わりますね。


【木も人も同じ】

木について面白いことを教えていただきました。
同じ種類の木でもそれぞれ性格が違って、ゆっくり伸びた方が素直で扱いやすく、目が詰まっているけど軽い。そして、急速に伸びて年輪が広い方が重く、癖があって根性曲がってる、とのこと。
「人間と一緒なんだよね」と黒川さんは笑顔を見せます。

でも、「わざわざ素直な木を探したりはしないし、国産・外国産も選ばない。節や割れとかの欠点があることも気にしない」と話してくれました。
理由を訊ねると、「欠点の周りに面白い木目や綺麗な木目が出るから」。
だから薪として燃やされる木でも良い木はもらってくるし、欠点も強度的に問題が無ければ使うそうです。
確かに人間も完璧な人より、少し癖がある人の方が魅力的に見えることがありますよね。
こうして、それぞれの木の良さを引き出して、味に変えていく。これがはーべすと全体の味わいある雰囲気を作っているのですね。


【手加工へのこだわり】

糸島くらし×ここのきで販売させていただいているはーべすとの時計。
美しい丸みのある形と細かな表面の質感、虫や渦巻き模様などのデザインがとても魅力的です。

しかしこの雰囲気は機械では作れないので、とても手加工の行程が多い作品です。
現在は基本の型は作るようにしていますが、前は形もデザインも全てゼロから作っていたそうですよ。
ただ、基本の型を作るようになった今でも、それぞれの作品の表情を出すのは全て手加工。

黒川さんは、「そういう意味では手加工にはこだわってきたのかな」と言います。

2014年5月


【工房を見せてもらいました】

黒川さんが手加工で良く使うのは、鑿(のみ)や鉋(かんな)。
その道具を見せていただくと、訓練校時代の鉋がまだ現役で残っていました。20年ものです!すごくカッコいい!

この日は、ウォルナットのお皿を作る為に曲面を鉋で削るところを見せていただきました。
「カンカンッッ!」
削る前に小さな鉋の刃を金槌で調整する姿がとても渋いです。

「ザッ ザッ ザッ・・・」
小さな鉋で少しずつ少しずつ一定のリズムを刻みながら削られていくお皿。
小さな鉋ですが、思ったより大きな音を立て、木を削っていきます。
静かな空間には、その音だけが聞こえ、私は無意識に緊張して、力の込められた指先と真っすぐなまなざしに見とれていました。
鉋の音が響くその時間が、とても長いものに感じられました。


【憧れの人】

同じ芥屋に工房を構える木工家のDOUBLE=DOUBLE FURNITUREの酒井 航さんと黒川さんは、実はずっと前にご縁があったとか。
酒井さんが、まだ建築を勉強する学生だった頃、卒業制作で黒川さんを訪ね「イスを作りたい」とお願いしたことがあるそうです。
その時酒井さんは、黒川さんの作品にも人柄にも憧れを持ちます。
酒井さんは当時を振り返って、「この人がいるから糸島で独立して始めようと思った」と語ってくれました。
私は、この酒井さんの言葉を聞いて、黒川さんが多くの木工家から尊敬される存在であることを再確認しました。

一方、黒川さんは、
「これまで『まだまだ自分は若手』という気持ちで、生きていくために目の前のことに精一杯やってきた。だから自分のことを外に発信していくことが、なかなかやれてこなかった。最近の若い人は外への発信がうまいなと思う。」

「だけど、自分には『今まで全て一人でやってきた自負』がある」と語ってくれました。

長年の経験と実績を携え、糸島でも重鎮の域に達しつつある工房はーべすと・黒川コータローさん。しかし今回のインタビューで、そのことへのおごりは全く感じられず、まだまだ若手の気持ち、という言葉がスッっと腑に落ちていくようでした。


【おわりに】

そんな黒川さんの好きな食べ物はワインとチーズ。
お料理も得意で、イタリアンや手打ちのパスタなどが十八番だそうです。近年は、奥さまのお誕生日にだけ、手づくりの料理をプレゼントするのだとか。
もうどこをとっても素敵ですね・・・。大人の男性という感じです!

デニムシャツに白のパンツ、そして黒のコンバースをさらりと着こなす57歳。
オシャレでデザインのセンスもあって「本当に格好良いなあ!」と軽率な憧れを抱きつつも、やはり作品そのものや鉋をかける姿がかもす空気感、ライフスタイルなどのひとつひとつに居住まいを正す思いを感じざるを得ませんでした。

私は、ほぼ初めてお会いしたにも関わらず、インタビューが終わるころにはすっかり黒川さんのファンになってしまいました!


インタビュー 前田 綾子
写真と文   山下 舞