糸島くらし×ここのき 福岡県糸島市前原中央3-9-1  092-321-1020

つくり手を訪ねて
月のさかな 溝口 英一郎

2014年6月

糸島の新鮮な山の幸、海の幸を使って作られる生パスタ・パスタソース。
ソースを湯煎して、生パスタを90秒ゆでるだけで、本格的なパスタがお家で楽しめます。なにより糸島の美味しい食材がゴロッと大きく入っているのがとても嬉しい。

そんな満足感たっぷりの生パスタとパスタソースを作っているのが、「月のさかな」の溝口 英一郎さん。生パスタは障害福祉施設のMUKAに依頼して製麺してもらっています。今回は、このMUKAの工房で作業中の溝口さんに会いに行きました。


【月のさかなって何屋さん?】

「生パスタをメインとした糸島の農水産物の加工会社です」
はっきり答えていただきました。

溝口さんが目指すイメージは、製麺所を併設した福岡のうどん屋「牧のうどん」なんだとか。
それは、新鮮な糸島の食材を使って、安くて美味しいパスタを庶民的な感覚で提供したいという想いから。

以前、前原で10年以上経営していたレストランでも手打ちの打ちたて生パスタと手づくりトマトソースを使ったパスタを380円で出していました。しかし、レストランの高級なイメージが拭えずに一旦、閉店。

今後も新鮮な糸島の素材を加工品として提供することをベースに、次の飲食店の経営も視野に入れています。
しかし飲食店と加工業はまったく業種が違い両立は難しいため、今は加工業での基礎固めの最中なんだとか。

そんな溝口さんってどんな人なのか、直撃してみました。


【真面目で面白い、料理一筋の溝口さん】

溝口さんの地元は糸島の潤(うるう)。
中学生のころから料理人になると決めていました。

高校卒業後は糸島を出て、大阪の調理師専門学校へ行き、同じ専門学校のフランス校に半年通います。
そこで、シンプルで雰囲気が良く、パスタの本場であるイタリアンに関心を持ち、フランスからイタリアへ足を向けることが増えます。フランスから帰国すると、当時イタリアで知り合った方のお店に勤め、帰福後は福岡のホテルの料理人として勤めます。
その後も再度イタリアに渡るなど、さまざまな経験を経て27歳で独立し、糸島の農水産物を使った料理を提供するレストラン「月のさかな」を始めました。
中学生のころから料理人と決めて、料理まっしぐらの人生ですね。

ホテルの料理人として勤めた当時を振り返って、溝口さんは
「ハタチそこそこくらいの時は、お金よりどれだけ勉強できるかに興味があった」と言います。

こうして真面目で少し強面な印象がある一方、ズッキーニを持ってポーズを取ってくれるほどお茶目で面白いのが溝口さんです。


【パスタソースの開発話】

工房に入った瞬間、目に入った大量のズッキーニ。ソースに使うズッキーニを乾燥させているところでした。
みずみずしくて美味しいイメージのズッキーニですが、そのままでは調理後に水分が出過ぎて加工に向かないとのこと。
そこで、ズッキーニのシャキッとした食感を残すために水分を抜いているところだったんですね。

同じ料理を提供する仕事でもまったく違う、飲食店での料理人と加工食品の生産。
ずっと料理人として生きてきた溝口さんが、加工業を始めたころには色々な苦労があったみたいです。

「自分が店で出しよるソースを詰めても商品にならんっちゃん。料理人って作りよるときに鍋の中で、ちょっとオリーブオイル足してみたり、ハーブ入れてみたり、塩足してみたり、何秒間かの間にいろんなことを無意識にやりよったい。」
「だけんあらかじめ濃度とかを調整して最高に近い状態で詰めんといけんのが、最初は難しかった。」

当時は、同じオーダーでも部活帰りの高校生とおばあちゃんだったら無意識のうちに違うものを作っていたという溝口さん。
それまでとは全く逆の世界へ手探りで入っていったんですね。

そして、さらに何度も同じ物を作らないといけないことと、それをスタッフができるようにならないといけないことに苦労したとのこと。その他にも食感を残すための殺菌の温度やパスタに練りこむ食材の相性など、「そういう何とも知れんことが大変だった」と言います。

その日の食材を見て、メニューを考えていたというアドリブ大好きな溝口さんには、大変な苦労だったに違いないですね。
そしてパスタに関しては、それら製麺のノウハウをマニュアル化して、現在のようにMUKAのスタッフにお願いできる形にしたそうです。


【オールマイティな溝口さん】

溝口さんの様に加工までを手がける料理人はなかなかおらず、料理人とも加工品を求めている人とも話ができ、農水産物の生産者も紹介できるという珍しい存在なんだそうです。
それだけでなく、商品企画・製作・営業・経理まで何でもする溝口さん。

「俺の営業は、自分で作ってるからお客さんの要望にその場で答えられるし、開発の提案もできる。」

なるほど、料理人としての確かな腕はもちろん、加工のさまざまな知識や経験、情報や人脈をフルに使って話ができるからより説得力があるんですね。
さらに最近は、6次産業と障害福祉分野をつなぐコンサルティングの立場として公演の依頼も来ているとか。


そして
「うちみたいに小さいところは、新しい商品も気持ちが乗ればその日に作れるし、次の日には伊都菜彩(直売所)で売れる。そのくらいのスピードで動ける。」
「飛び方を考えて飛ぶんじゃなくて、 飛びながら考える。 着地が難しいし、やりっぱなしのことがいっぱいあるけど、それを考えてたら飛べない。ずっと動いときたい。」
そう言います。
常に動き続けている溝口さんの口から聞くそれは、納得の言葉でした。

これまでの様々な経験をノウハウとして引き出せる形で蓄積し、次のお店の構想や新メニューなど、いつも先のことに考えを巡らせている溝口さん。そしてフットワーク軽く、新しいチャレンジをどんどん形にしていく攻めの姿勢に圧倒されました。
次の大ジャンプが楽しみですね!

インタビュー 前田 綾子
写真と文   山下 舞