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つくり手を訪ねて
恵美須丸の中型二艘巻網〜カタクチイワシ漁〜

2015年4月

「大漁を祈ります。」
早朝7時15分、鹿毛さんは甚福丸に乗り込んだ僕を港から送り出した。
今回で乗船は二度目だ。前回は、失敗した。カタクチイワシの大きな魚群と出会うことがなく、約3時間の船旅は終わった。漁に出れば、魚が捕れるといったような甘いものではない、と漁の厳しさを思い知らされた。
しかし、今回は違う。べた凪だし、動き出しの時間も早い。きっとうまくいく。と心から願った。
今から始まる中型二艘巻網は、魚探船(久長丸)1名、運搬船(甚福丸)1名に加え、巻網をする本船恵美須丸が二艘9名、合計四艘11名で漁をする。僕が乗船した運搬船は、いりこを運ぶ役割を担う船だ。
この船は魚群探知機を積んでいるので、運搬用の氷を積んで誰よりも早く沖に出て、魚群の位置を見つけては恵美須丸に連絡を入れる。この船の船主が唐邦彦さん。恵美須丸の代表を務めている。漁も唐さんの決断が鍵をにぎる。

7時56分、約40分の探索を終え、いよいよ漁が始まった。各船との無線のやり取りが頻繁になる。数分前に魚群の位置を特定するために投げ込んだ赤い旗に久長丸がゆっくり近づいて、魚群の真上に位置した時、恵美須丸二艘が久長丸を目がけてやってくる。二艘は両隣となって、網を中央に用意した状態で沖にでる。ポイントに着いた瞬間、この二艘は一気に左右に広がるように走り出す。円をつくり始めたのだ。網の長さは約300m〜400mとても迫力のあるものだった。
8時20分、海面に大きな円となった黄色の浮きの上にかもめが止まり出した。狙っているものは同じ獲物だろう。「鳥は、よう知っとう。」いりこ製造責任者の仲西さんの言葉が思い出される。
「今から、1時間くらいかかるばい。」そういって、唐さんは巻網で濡れないように分厚いゴム製のエプロンを着た。甚福丸、久長丸はゆっくりと恵美須丸に近づき、太い縄が恵美須丸から投げ込まれ、しっかり結んで固定した。
海上で船から船へ飛び移る姿は、かっこいい。夢を感じさせてくれる。
ここで初めて、恵美須丸の乗組員と顔を合わせた。こちらの船には唐さんを含めて5名。巻網の作業のため、それぞれがすでに動き出していた。
広がっていた巻網がじわりじわりと小さくなっていく。
時折、巻いた網にくっ付いてきたイワシを海へ戻す姿を眺めていると、かもめの群れが近づいていることにハッとする。

9時00分、円の中に赤い蛇腹ホースを入れる。甚福丸に積んでいた貯蔵用保冷庫の氷に水をいれる。船内が慌ただしくなってきた。海面を覗けば、太陽でキラキラ光るイワシの大群が目に見えて分かる。二艘の距離は徐々に縮まる。船と船の距離が5m、3m、2m….その瞬間、ホースがイワシを一気に吸い上げる。イワシを傷つけない最良の方法だ。恵美須丸から甚福丸へ飛び移り、ホースの先を追った。ドドドドド….大きな保冷庫の中にイワシが一斉に流れてくる。
早朝からの探索、ポイントを絞った巻網、まずはひとつ報われる瞬間がここにあるような気がした。
およそ420kgのイワシが獲れた。
しかし、ここで終わりではない。海底までが浅かったため、破けないように慎重に残りの網を巻き上げる。
次の漁にすぐに使えるように、綺麗に網を船内で整理したあと、それぞれの船で沖から港へ帰っていく。
この帰りの10分ほどが乗組員にとっては貴重な休憩時間。恵美須丸から、甚福丸に乗り換えた若手の乗組員である井上拓也さんと城本秀和さんは、持ち込んでいたパンと飲み物を取り出した。スマホを見ながら、勢いよくパンを口に頬張る姿は、今の若者の光景そのものだ。先ほどの漁師らしい姿と現代の若者の姿が同じ人とは思えない不思議な感覚だった。

10時05分、イワシを積んだ甚福丸は港に到着した。港にはホースがあり、そのホースは地中を通って加工所まで約80m繋がっている。
加工所は木とトタンで作られたイワシ加工専用の建物だ。高さ2m程のところにステンレス製の受け箱があり、そこがホースの終着点。梯子を登って覗き込むと、イワシがホースから出てきた。箱に付いているレバーを引くと、底が開いた。氷とともにイワシが落ちていく。そこで待ち受けていたのは、灰色をした平たいコンテナ。これがベルトコンベアによって、水で洗われながら進んでいく。その先でコンテナをひとつひとつ受け取り、重ねて積む、数がまとまれば、そのコンテナたちはクレーンで一気に沸騰した釜の中に運ばれる。ここで3〜4分塩ゆでされた後、恵美須丸の乗組員らによって、乾燥用の台車の中に
収納される。台車は、乾燥部屋に運ばれる。34〜35℃の温風乾燥で、およそ13〜14時間。この運ぶところまでで、一連の流れが終了した。

恵美須丸の男たちは、また港の船に歩いていった。僕も船に向かったが、久長丸と甚福丸の姿は無かった。加工している間に、すでに旅立っていたのだ。多いときは1日に4〜5回は漁に出る。
「ん?また乗るとね?」恵美須丸の坂田さんから、声をかけられる。
「いや、もう十分です。ありがとうございました。体が冷えきりました。」すぐにでも、牧のうどんに行って体を温めたかった僕の返事は早かった。
久長丸と甚福丸の無線の声が、恵美須丸のスピーカーから聞こえてきた。
坂田さんはチョコレートを頬張りながら、準備に取りかかっていた。


あとがき
「昔の繁忙期は、朝7時〜深夜1時なんて当たり前。」数で言えば、今回獲れたイワシの20倍以上の量だったようだ。炊き出しもやっていて、一日のほとんどがこの場所で過ごしていたのだろう。想像を超える忙しさである。
‘きつくて、厳しくも大漁だったあの頃’を乗り越えてきた恵美須丸の乗組員には強さがある。強さの中にある優しさが団結力を生んでいる。それがきっと、福岡県で唯一カタクチイワシ漁を継続している理由に他ならない。
「感動を分かち合ってください。」今回の乗船前に糸島漁協船越支所長の鹿毛さんからかけられた言葉。海と寄り添いながら生きていく漁師の皆さんを支えていきたい気持ちがそこにあったと取材後に感じた。お互いを思い合っている、本当にいいチームだ。
糸島の小学校では、このいりこを学校給食に使っているところもある。
地域で地域を支える素晴らしいことだ。

今回の取材にご協力いただいた元気いっぱいの船越支所の皆様、ありがとうございました。
恵美須丸:仲西治文船長、小金丸健一船長、井上富士弥さん、井上拓也さん、坂田松人さん、城本秀和さん、仲西治久さん、久長丸の小金丸勝利船長、小金丸勝也さん、甚福丸の唐崎邦彦代表、製造責任者の仲西正則さん、釜長 中川フジエさん
塩ゆでされた瞬間のイワシの味は忘れられません。このおいしさは想像以上でした。最後に船越支所長の鹿毛さん、取材できるまで調整約1ヶ月間、随時お電話いただきまして、本当にありがとうございました。本気で船越支所のみんなのことを思う姿がかっこ良いです。これからもよろしくお願いいたします。