• instagram
  • facebook

PEOPLE

つくり手を訪ねて
一人ひとりの心の中に、自分だけのこよみを
糸島こよみ舎

私たちの暮らしは、自然とともに移り変わるもの。 「糸島こよみ」は、そんな季節の移り変わりに目を向けた日めくりカレンダー。いつの間にか過ぎ去ってしまう毎日も、糸島こよみを毎朝一枚めくると、ふと立ち止まって季節を感じたくなります。 そんな糸島こよみを制作しているのは「糸島こよみ舎」のみなさん。2012年に結成された糸島こよみ舎は、2014年版から毎年、日めくりの糸島こよみを発行しています。2016年には環境省の生物多様性大賞を受賞。全国的に注目される取り組みに発展し、2017年度には糸島市まちづくり提案事業として生物多様性に関するイベントも開催してきました。  糸島こよみの魅力の1つは、個性あふれる多彩な記事。一人ひとりが個性豊かなメンバーだからこそ集まる、多様な情報。日ごとにさまざまな文体、さまざまなデザインの記事を楽しむことができるようになっています。まるで生き物のように多様性に富んだ個性あふれる記事たちは、いったいどのようにして生み出されてきたのでしょうか。  糸島こよみ舎のみなさんに、糸島の季節の移り変わりを感じられる取り組みについてうかがいました。

糸島こよみ舎

いのちの営みに沿った暮らし方
糸島こよみ舎は、いのちの営みに沿った暮らしを求める有志により運営されている。糸島の季節変化を記した「糸島72候」や身近な生き物、お米の成長、畑の仕事や旬の食べ物のことなど。糸島の自然のリズムを身近に感じることができる日めくりカレンダー「糸島こよみ」を製作している。

《糸島こよみ舎》の作品はこちら

■糸島の共通のこよみを作る

糸島こよみ舎が結成されるきっかけは、メンバーの1人である藤井芳広さんのアイデア。2012年、糸島に移り住んで間もなかった時期のことでした。藤井さんはそれまで、NPO法人いとなみの代表として環境活動や日韓交流などの活動を行っていました。 藤井さんが知人との話の中で「平原遺跡から見ると、日向峠のくぼみから太陽が出てくるようになるのが10月20日で、かつてはそれが稲刈りの合図だった」と聞き、そこからあるアイデアに発展しました。<糸島共通のこよみ>を作れたら面白いのではないか、というひらめきです。 ひらめくとすぐに行動に移すのが藤井さん。心当たりのあるメンバーに呼びかけました。呼びかけに集まったのは、代表である村上研二さんを始め、2017年現在のメンバーである多比良亞季さん、古賀麻紀子さん、小川美穂子さん、藤永麻里さん、猪俣育恵さん。さらに、現在は参加できなくなったメンバーも多くいました。メンバーはみんな、転職や独立など、ちょうど人生の転機を迎えるタイミングだったとか。 糸島こよみ舎の代表(取材時)である村上さんも、このとき集まったメンバーの1人。2007年に糸島に移住。自然農という自然の循環に寄り添うことを重視した農法を実践し、米や野菜を育てていました。藤井さんの呼びかけがあったこの時期は、「生きるために必要な田畑のこと以外をやりたくなっていた時期」だと語ります。糸島こよみは、野菜を育てながら気づいたことを表現できる絶好の機会と考えたのです。

■多様なメンバーから生まれる個性豊かな記事

 糸島こよみ舎のメンバーは取材時点で7名(その後、新メンバーも加わりました)。藤井さんは生物多様性がテーマの主人公「グリド」の物語をはじめ、さまざまなユニークな記事を書いています。村上さんも、実際に経験した農作業のことや、農作業に関わる生きもののことなど、自然との関わりを経験に基づいて書いています。さらに、ほかのメンバーによる記事もじつに個性豊か。  たとえば、小川さんは2008年に糸島に移住。村上さんと同じく自然農に取り組み、環境問題に関心をもちながら、歴史や民俗学にも興味を持つ勉強家。農作業を通じて普段から自然に触れていると、自然を大切にしたいという気持ちも強くなると言います。糸島こよみではさまざまな人にインタビューした記事を書いていて、瑞梅寺のおばあちゃんの話や、野鳥のこよみなど、多くの記事を書いています。  一方、お菓子職人でもある多比良さんは、もともと自然に対する思いが強いわけではなかったと言います。むしろ渡り鳥という存在さえも知らないほど、自然からは離れていたからこそ、学び直したいと思うようになりました。そんな多比良さんは、「窓辺の観察日記」という暮らしの中で出会う生き物のことなどを書いています。  パン職人の古賀さんも、もともと自然への関心が強いほうではなくて、多比良さんの感覚に近かったそうです。ただ、自分も自然に寄り添う暮らしがしたいという気持ちから、単純に面白そうだと思い、参加することにしました。古賀さんの書く記事も、古賀さんの感性で興味を持った人にインタビューをしたり、植物のことを書いたりしています。  また、当初糸島に住んでいて、今は埼玉県に転居しているにも関わらず、猪俣育恵さんもメンバーの1人として協力しています。梅干し作りやお茶作りなど、遠くにいながら記事も書いています。  このように、糸島こよみは自然に対する知識の深い人のみならず、単純に「面白そう」と集う人が集まったからこそ、より個性豊かで、親しみやすい多彩な日めくりになっています。

■「日めくりカレンダー」という形にこめた想い

一方、そんな多様なメンバーの記事を、ひとつのカレンダーという形に仕上げているのが、デザイナーであるメンバーの藤永さん。人の想いや暮らしに寄り添うデザインに関心が高く、もともと「カレンダー」というもの自体に興味があったと言います。 とは言え、日めくりカレンダーという形は最初から決まっていたわけではありません。むしろ時間をかけて表現の仕方を考えるプロセスを大切にしていました。 集まった当初は「循環する暮らしを“想造”する」というテーマで、さまざまなイベントやワークショップを開催し、また毎月フリーペーパーの発行も行っていました。そのプロセスでは、メンバー間でも哲学的な話などをしながら想いを交わし合い、糸島こよみに対するメンバーの意識も共有されていったのです。 糸島こよみも、一目で季節の移り変わりが見てとれるように、1枚のカレンダーに1年間のこよみの変化を表すことも考えていました。しかし、1枚のカレンダーでは表現しきれないものが多く、だからといって月めくり、週めくりでも足りない。最終的にまとまったのが、日めくりという形です。これが2013年6月のこと。2014年版を発行するまで、わずか半年もありませんでした。 そうと決まると、たいへんなのがデザイナーである藤永さんの役割です。 日めくりカレンダーのデザインは、毎日の雛形を決めて、それに当てはめて原稿を作ってもらうと、デザイナーとしての作業は楽になります。でも、それだと一人一人の個性が活かせない。みんなそれぞれに記事に特長があり、メンバーそれぞれをリスペクトしているからこそ、できるかぎり自由な形で、手書きも打ち込みも絵もすべて個人個人にまかせているんだとか。 最初の年はゼロからの出発。残り半年もないなかで、一人一人の個性を活かした365日の記事を作るのは、相当な苦労があったに違いありません。

■理想のこよみは一人一人の心の中に

 このように、糸島こよみは生物の多様性のみならず、こよみ舎メンバー一人一人、さらには取材で話を聞いた、多くの糸島の人の多様性も活かしながら生まれてきました。糸島こよみは、糸島という地域限定のこよみではあるけれど、一人一人の暮らしが違うように、ほんとうの意味でのこよみは一人一人で違うもの。 こよみ舎メンバーいわく、理想のこよみは一人一人の心の中に、それぞれのこよみが生まれること。糸島という地域。一日ずつという時間。そして、一人ひとりの個人。そんなきめの細やかさを大切にしているからこそ、理想の姿が見えているのかもしれません。 糸島こよみを制作するメンバー自身の心の中にも、生まれてきたものが少なからずあるようです。2018年、メンバーはこれからも糸島こよみを作り続けることを決め、動き出しています。新たなメンバーも加わりました。 これからの糸島こよみ、ますます楽しみです。

糸島こよみ舎

いのちの営みに沿った暮らし方
糸島こよみ舎は、いのちの営みに沿った暮らしを求める有志により運営されている。糸島の季節変化を記した「糸島72候」や身近な生き物、お米の成長、畑の仕事や旬の食べ物のことなど。糸島の自然のリズムを身近に感じることができる日めくりカレンダー「糸島こよみ」を製作している。

《糸島こよみ舎》の作品はこちら